心不全

心不全とは?

心不全は 「心臓が全身の必要量の血液を送り出せず、その結果として息切れやむくみなどの症状が現れる状態」 です。高齢化の進行に伴い、2030年には国内患者数が130万人を超えると推計され、“心不全パンデミック”とも呼ばれています。

なぜ起こる?―代表的な原因

虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)

心臓の血管が詰まったり狭くなったりして心筋に酸素が届かず、筋肉が弱ってしまいます。日本では心不全の原因として最も多くみられます。

高血圧

長いあいだ血圧が高い状態が続くと、心臓は強い力で血液を送り出そうとするため筋肉が厚く硬くなります。その結果、ポンプ機能が低下して心不全につながります。

心臓弁膜症

血液の逆流や流れにくさを防ぐ「弁」が壊れてしまう病気です。弁が開きにくい・閉じにくい状態が続くと、心臓に余分な負担がかかりポンプとしての働きが落ちます。

心筋症

心臓の筋肉そのものが拡がり過ぎたり厚くなり過ぎたりして硬くなる病気です。遺伝が関係することもあり、若い方でも発症することがあります。

不整脈(特に心房細動や頻脈性不整脈頻拍)

心臓のリズムが乱れると、効率よく血液を送り出せなくなります。鼓動が速すぎたり不規則になったりすると、少し動いただけで息切れしやすくなります。 

そのほかの原因

先天性心疾患、がん治療薬(アントラサイクリン系など)による副作用、甲状腺ホルモンの異常、ウイルスによる心筋炎、過度のアルコール摂取なども心不全を引き起こすことがあります。

心不全の症状

心不全の症状には以下のようなものがあります。 

体を動かしたときに息切れがする

普段は平気な階段や坂道で「はぁはぁ」と息苦しくなるのが典型的なサインです。心臓が十分に血液を送り出せず、筋肉や肺が酸素不足になるために起こります。

横になると息苦しくなり、上半身を起こすと楽になる

夜寝ようとあお向けになると呼吸が辛くなり、起き上がると楽になる現象です。横になると血液が心臓に戻りやすくなり、弱った心臓が対応しきれず肺に水分がたまるためです。

足首やすねがむくむ/短期間で体重が増える

靴下のゴム跡が深く残ったり、数日で体重が1〜2 kg増えたりしたら注意が必要です。血液がうっ滞して余分な水分が下半身にしみ出ているサインです。

少し動くだけで強い疲れを感じる(易疲労感)

家事や買い物など軽い作業でもすぐにぐったりします。全身に酸素が行きわたりにくく、エネルギー不足になるためです。

夜中にトイレが近くなる

日中に足にたまった水分が、横になって心臓に戻り腎臓へ流れるため、夜間の尿量が増えます 

せきやピンク色の泡状のたんが出る

肺に水分がしみ出すと、乾いたせき泡状のたんが出ることがあります。急に量が増えたら早めの受診が必要です。

動悸や胸のドキドキ感

心臓が速く打ったりリズムが乱れたりして、胸がバクバクすることがあります。不整脈を伴う心不全のサインです。

お腹の張りや食欲不振

右側の心臓の働きが弱まると、肝臓や胃腸に血液がうっ滞し、お腹が張ったり食欲が落ちたりします。

心不全による命への重大な影響

心不全は 「がんと同程度に生命を脅かす病気」 といわれ、中等度であっても1年以内の死亡率が15〜30 %、重症では50〜60 %に達します。
ただし、心不全は早期から自己モニタリング・減塩・運動療法・4本柱の薬物治療を継続することで進行を遅らせ、再入院や死亡リスクを大幅に減らすことができます。症状がなくても体重や息切れの変化をチェックし、気になることがあれば主治医や看護師へすぐに相談しましょう。

もし入院してしまったら

1.急性期の治療

入院直後は、からだにたまった余分な水分を静脈注射の利尿薬血管拡張薬で抜き、呼吸を楽にするために酸素を投与します。 

左室駆出率が低いタイプ(HFrEF)の方は、「4本柱」(ARNI/ACE阻害薬、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)を入院中に内服開始すると、退院後6か月の死亡率と再入院率が大きく下がると報告されています。 

2.チーム医療でサポート

入院中は、心不全専門医、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士など多職種が連携し、治療だけでなく退院後の生活まで一緒に考えます。 

3.退院前のチェックリスト

  • 毎日の体重測定の方法 
  • 薬の飲み方と飲み忘れ防止策 
  • 減塩や水分量の目安、バランスの良い食事 
  • 自宅でできる運動メニュー 

こうした内容を理解できているか確認し、退院1週間以内に外来受診や訪問看護を予約します。 

4.転院・在宅医療の選択肢

症状が重い ステージの場合は、在宅酸素療法や訪問診療、補助人工心臓(LVAD)なども早めに検討します。 

5.再入院を防ぐ「30日の壁」

退院後30日以内は再入院の危険が最も高い期間です。 

心臓リハビリを早期に開始し、電話や遠隔モニタリングで体重・症状をこまめに確認することで、再入院を大幅に減らせます。 

心不全とうまく付き合う方法

以下の事に気を付けて生活することが重要です。

自己モニタリング

毎朝の体重・血圧・脈拍記録。増減をアプリや手帳で可視化。

減塩と適切な水分管理

目標食塩 6 g/日以下。安定期は過度な水分制限より塩分制限が中心。

運動療法(心臓リハビリ)

医師の指導下で有酸素+筋トレを週150 分。再入院とQOL低下を抑制。

薬物治療の4本柱(ARNI/ACEi・β遮断薬・MRA・SGLT2i)を中断しない

副作用や費用で困ったら医療者へ相談。 

定期受診とワクチン

インフルエンザ・肺炎球菌は増悪予防に有効。 

メンタルケア

睡眠時無呼吸やうつ症状は増悪因子。必要に応じ専門医紹介。 

予防法

血圧管理(目標 130/80 mmHg 未満)

  • 毎朝・毎晩、自宅で血圧を測定し記録します。 
  • 減塩(1日6 g未満)と DASH 食(野菜・果物・低脂肪乳製品中心)を意識してください。 
  • 体重管理、禁煙、節酒(男性1日アルコール20 g、女性10 g以下)が降圧に有効です。 
  • 生活改善で目標に届かなければ、ACE 阻害薬/ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬などを組み合わせて治療します。 

脂質・血糖コントロール

  • LDL コレステロールは 100 mg/dL 未満(冠動脈疾患がある場合は 70 mg/dL 未満)が推奨値です。 
  • HbA1c は 7%未満を一般的な目標に、低血糖が起きやすい高齢者では 7.5〜8%を許容することもあります。 
  • 食事は飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を減らし、魚やオリーブ油・ナッツなど不飽和脂肪酸を増やします。 
  • 定期的な有酸素運動はインスリン抵抗性を改善し、中性脂肪を下げます。 
  • 必要に応じ、スタチン・エゼチミブ・PCSK9 阻害薬、メトホルミン・SGLT2 阻害薬・GLP-1 受容体作動薬などを使用します。 

禁煙・節酒・適正体重(BMI 22 前後)

  • 喫煙は1本でも心血管リスクを上げます。禁煙後1年で心不全リスクは約半減します。 
  • アルコールは「たしなむ程度」にとどめ、休肝日を設けましょう。 
  • 体重は 週150 分(1日30 分×5日) の中強度の有酸素運動(やや息が弾む速歩など)と、週2回の筋力トレーニングで維持できます。 
  • 5%の減量でも血圧・血糖・脂質すべてが改善し、心不全の新規発症リスクが低下します。 

定期健診と早期治療

  • 年1回の健康診断で心電図・心音・血液検査を受け、弁膜症や不整脈を早期発見します。 
  • 家族歴がある場合や症状があれば、心エコーやホルター心電図を追加し、必要なら専門医に紹介してもらいましょう。 

ストレスマネジメントと睡眠

  • 1日 7〜8時間 の質の良い睡眠を確保し、就寝前はスマートフォンやカフェインを控えます。 
  • 深呼吸・ストレッチ・マインドフルネス瞑想を1日5〜10分取り入れると、交感神経の過剰な興奮を抑制できます。 
  • いびきや日中の強い眠気があれば睡眠時無呼吸症候群を疑い、検査を受けてください。治療により血圧と心不全リスクを同時に下げられます。 

これらの予防策は互いに補い合い、続けるほど効果が高まります。血圧・体重・生活習慣を「見える化」し、気になる変化があれば早めに医療機関へ相談しましょう。 

最後に

ゆみのクリニック渋谷桜丘には循環器内科の専門医が多数在籍しており、心不全をはじめとする心臓の病気に幅広く対応しています。さらに当院では、睡眠時無呼吸症候群の検査・治療も行っております。健康診断で心電図や血圧の異常を指摘された方、最近血圧が高めで心配な方など、どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。スタッフ一同、皆さまの健康を全力でサポートいたします。

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