アニサキス症
「お刺身や寿司を楽しんだ後、急にみぞおちあたりが差し込むように痛くなった…」「吐き気もするし、脂汗が出てくるような激しい痛みに襲われている…」
もし、あなたが今、このような突然の激しいお腹の痛みに襲われているとしたら、それはもしかすると「アニサキス症」かもしれません。
特に、魚介類を召し上がった数時間後に症状が出ている場合、その可能性が考えられます。
アニサキス症は、魚介類に潜む寄生虫が原因で起こる食中毒の一つです。想像するだけでも怖いし、あの激しい痛みは本当に辛いものです。
アニサキス症とは?

アニサキス症とは、アニサキスという寄生虫の幼虫が、生または加熱不十分な魚介類(サバ、イワシ、カツオ、サケ、イカなど)と一緒に人間の体内に入り込み、主に胃や腸の壁に潜り込もうとすることで引き起こされる病気です。
アニサキスの幼虫は、本来クジラやイルカなど海棲哺乳類を宿主としていますが、その過程で様々な魚介類を中間宿主とします。私たちは、この中間宿主である魚介類を食べることで感染してしまうのです。
アニサキス症の主な症状

アニサキス症の最も典型的な症状は、魚介類を食べてから数時間後(多くは2~8時間後)に突然現れる、激しいみぞおちや下腹部の痛みです。
- 突然の激しい腹痛: 特にみぞおちあたりに、差し込むような、あるいはキリキリとした強い痛みが起こることが多いです。痛みに波があることもあります。
- 吐き気、嘔吐: 強い痛みに伴って、吐き気や実際に吐いてしまうこともあります。
- その他: 膨満感などが起こることもあります。
痛みがあまりに強いため、救急車を呼ぶ方や、他の重篤な病気ではないかと不安になる方も少なくありません。
アニサキス幼虫が胃ではなく腸まで移動した場合、食後十数時間後から数日後に、やはり激しい腹痛や吐き気、おう吐などの症状が出ることがあります(腸アニサキス症)。
稀ではありますが、アニサキスに対してアレルギー反応を起こし、じんましんやかゆみ、アナフィラキシーショックといった重篤なアレルギー症状が出現することもあります。
なぜアニサキスでそんなに痛くなるの?
アニサキスの幼虫は、人間の体内に入ると、生き延びようと胃や腸の壁に頭をもぐり込ませようとします。人間の体内はアニサキスにとって本来の宿主ではないため、長くは生きられませんが、この「潜り込もうとする」動きに対して、私たちの体が拒否反応を起こし、胃壁や腸壁に炎症が起こります。
この炎症や組織への刺激が、あの耐えがたいほどの激しい痛みの原因となるのです。
「アニサキスかも?」と思ったら、迷わず医療機関へ
魚介類を食べた後に、これまでに経験したことのないような突然の激しい腹痛や吐き気を感じたら、「もしかしてアニサキス症かも?」と疑い、速やかに医療機関を受診することが非常に重要です。
特に、消化器内科を受診されることをお勧めします。消化器の専門医であれば、アニサキス症の症状をよく理解しており、適切な診断と治療を迅速に行うことが可能です。
アニサキス症の痛みは自然に治まることもありますが、数日から1週間程度続くことがあり、その間の苦痛は計り知れません。また、他の重篤な消化器疾患と見分けがつかない場合もあります。
「どうしよう」「様子を見ようかな…」と迷っている時間が、辛さを長引かせてしまうこともあります。一人で抱え込まず、当院にご相談ください。
アニサキス症の診断と「内視鏡による治療」

医療機関では、まず症状や食事内容について詳しくお伺いします。アニサキス症が強く疑われる場合、最も有効な診断方法であり、同時に治療も兼ねるのが「内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)」です。
内視鏡を胃や十二指腸に入れて粘膜を観察することで、胃壁や腸壁に潜り込もうとしているアニサキス幼虫を直接見つけることができます。
アニサキスが見つかった場合、内視鏡の先端から特殊な鉗子(かんし)を出し、その場で虫体を摘出します。虫体が摘出されると、多くの場合、あれほど辛かった痛みが劇的に改善します。
内視鏡による摘出が難しい場合や、腸アニサキス症などで内視鏡が届かない場合は、駆虫薬の効果は限定的なため、症状を和らげる対症療法が行われたり、ごく稀に外科的な処置が必要になることもあります。
当院では、患者さんの負担を和らげる工夫をした内視鏡検査を行っておりますので、胃カメラに対して不安がある方も、まずはお気軽にご相談ください。
アニサキス症を予防するには?
アニサキス症は何よりも予防が大切です。ご自宅で魚を調理したり、外で魚介類を食べる際に気をつけたいポイントをご紹介します。
- 加熱処理: アニサキス幼虫は熱に弱いです。魚介類を調理する際は、中心部まで十分に加熱しましょう。目安は60℃で1分以上です。一般的な料理の加熱で死滅します。
- 冷凍処理: アニサキス幼虫は低温にも弱いです。冷凍する場合、-20℃以下で24時間以上冷凍することが有効です。家庭用冷凍庫でも冷凍できる場合があります。(ただし、厚生労働省では-20℃で24時間以上としていますが、より確実な冷凍には業務用の急速冷凍庫が必要な場合もあります)
- 目視での確認: 新鮮な魚を購入し、調理する際に、魚の内臓や身の中にアニサキス幼虫がいないかを目で見て確認し、見つけたら取り除くことも予防につながります。(ただし、非常に小さいため見つけにくい場合が多いです)
- 選び方: 魚を購入する際は、より新鮮な魚を選びましょう。また、丸ごと1匹で購入した際は、速やかに内臓を取り除いてください。
- 内臓を生で食べないでください。
【注意!】誤解が多いですが、以下の方法はアニサキス幼虫には効果がありません。
- わさびや醤油、酢につける
- 塩漬けにする
- 通常の料理酒を使う
これらの方法では、アニサキス幼虫は死滅しませんので、十分な加熱または冷凍を行うことが重要です。
アニサキス症のことでお悩みなら当院にご相談ください
「突然の激しいお腹の痛み、もしアニサキスだったらどうしよう…」
そんな不安を感じた時、迅速かつ的確な診断と治療を受けられるかどうかは非常に重要です。
当院は渋谷に位置し、アニサキス症を含む幅広い消化器疾患の診療を行っております。
アニサキス症かもしれない、あるいは魚介類を食べてから体調がおかしいと感じる場合は、お一人で悩まず、どうぞお早めにご連絡ください。
【電話予約】03-5784-2268