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静かなる健康リスク、睡眠負債とは? ー『眠っても眠い』が危ない理由ー

 忙しいオフィスで働く皆さん、毎日しっかり眠れていると思っていませんか?「睡眠時間は足りているのに、日中に強い眠気がある」または「目覚めたときに疲れが残っている」—そんな感覚があるなら、知らず知らずのうちに“睡眠負債”がたまっているかもしれません。

寝起きが悪い女性イメージ

  「睡眠負債」とは、本来必要とされる睡眠時間に対して、実際に確保できていない時間が積み重なっていく状態を指します。いわば体と脳の“借金”であり、溜まっていくほどに日常生活や健康に深刻な影響を及ぼします。近年ではこの概念に加えて、見かけの睡眠時間は足りていても、眠りの質が悪ければ同じようなリスクがあることも分かってきました。たとえば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)では、一晩に何度も呼吸が止まり、そのたびに脳が覚醒しています。本人に自覚がないまま“断片的な睡眠”を繰り返しており、結果として睡眠の回復力が著しく低下してしまうのです。

 こうした睡眠の問題は、糖尿病・高血圧・肥満といった生活習慣病と密接に関連しています。睡眠が不足したり質が低下すると、交感神経が過剰に働き、血圧や心拍数が高止まりしやすくなります。また、インスリンの効きが悪くなり、血糖値が上がりやすくなることも知られています。さらに、睡眠障害はホルモンバランスを乱し、食欲が増すことで肥満を助長し、悪循環に陥ることもあるのです。特にSASのような疾患を放置していると、心不全や脳卒中のリスクが2倍以上になるという研究報告もあり、軽視できません。
 またこの問題は、個人の健康だけにとどまらず、社会的な課題にもなっています。日本人の平均睡眠時間はOECD諸国の中でも最も短く、長時間労働や夜型生活が背景にあります。慢性的な眠気や集中力の低下は、仕事中の判断ミスやヒューマンエラーを招き、労働災害や事故のリスクを高めることから、労働安全衛生の観点からも注視すべき重要なテーマです。

  「しっかり寝ているはずなのに疲れが取れない」もしくは「日中に眠気が抜けない」といったサインは、質の低い睡眠が引き起こしている“見えない睡眠負債”の可能性があります。ご自身の睡眠の状態に目を向け、生活習慣や体調の変化と向き合うことが、健康維持の第一歩です。眠りを軽視せず、自分の体の声に耳を傾けてみませんか?

 

監修
ゆみのクリニック渋谷桜丘
循環器専門医 土肥智貴

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